治療内容

複数の検査を行う理由

複数の検査を行う理由 イメージ画像循環器疾患は、一般身体検査に加えて複数の検査(心電図検査、血液検査、X線検査、心エコー検査など)を行い、その結果を総合して病気を診断しなければなりません。例えばX線検査は心臓全体のサイズを評価したり、肺の状態を確認するために有益ですが、不整脈を診断したり心臓の内部構造を把握することはできません。不整脈を診断するためには心電図検査が必要であり、一方で心臓の内部構造を把握するためには心エコー検査が最も適しています

このように各検査の得意分野、不得意分野が分かれているため、ある一つの循環器病を評価するのにも様々な検査を行う必要があるのです。また、様々な検査を組み合わせることで病気やステージを正確に診断できるうえ、見落としや誤診を回避できます。不必要に思えるかもしれませんが、複数の検査を行うことは循環器疾患の診断には必要不可欠なのです。

当院では国内最高クラスの循環器検査機器を備え、それぞれの検査によって得られた結果の解釈には、高度な専門知識を有する経験豊富な専門スタッフが当たります。また、麻酔や動物に大きな侵襲を伴う検査が必要になることはまれで、安心して検査を受けていただくことができます。

具体的な治療内容

内科治療

具体的な治療内容 イメージ画像心臓病治療の基本は内科治療になります。一般的に内科治療は投薬を行うということだけではなく、減塩食へ切り替える、過度な運動や興奮を抑制する、暑熱寒冷を避けるなどといった生活スタイルの見直しが含まれています。

ピモベンダン

心臓の収縮力を改善し、なおかつ血管を拡張して心臓のポンプ機能を増強します。ピモベンダンは心筋細胞のカルシウム感受性を増感して、心臓を疲れさせないような強心作用があります。さらに血管のホスホジエステラーゼ阻害作用によって心臓の出口となる血管を拡張し、心臓の負担を軽減します。

ピモベンダンは、僧帽弁閉鎖不全などの心臓弁膜症や拡張型心筋症に用いることにより、予後を改善させたりステージの進行を遅らせる作用が認められています。近年では無症状の僧帽弁閉鎖不全の犬にも投与の有効性が認められています。

アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)・アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

血圧を下げ、心臓を保護する作用があります。心不全では弱くなった心臓のポンプ機能を補うために、アンギオテンシンというホルモンが活発化しています。このホルモンは手足など全身の血管を縮めることにより心臓の血液量を増やします。

しかし逆に縮まった血管へ血液を送るためには、心臓の力がさらに必要です。ACEIやARBはアンジオテンシンの過剰な活動を抑えて血管をひろげ、心臓にかかる負担を軽くします。心臓の機能を低下させてしまう心筋組織の変化(リモデリング)を防ぐ作用もあります。

利尿剤

尿量を増やし、体内の余分な水分を減らします。心不全では心臓のポンプ機能が悪くなり、腎臓へ運ばれる血液の量も減り、尿が作られにくくなっています。尿が作られないと体内の水分が増え、さらに心臓の負担が大きくなります。利尿薬は尿量を増やし、体の中の余分な水分や塩分を減らす作用があります。

β(ベータ)遮断薬

過剰になった心臓の働きを少し休めて、心臓の機能を保護するお薬です。慢性心不全では心臓の弱くなった機能を補うために、交感神経が活発化しさらに心臓に負担をかけます。β遮断薬は交感神経の働きを抑えることで、心臓の動きを少し休める作用があります。不整脈を予防改善する作用もあります。

カルシウム拮抗薬

血管を拡張して血圧を下げます。カルシウム拮抗薬は血管の筋肉に対するカルシウムの働きを抑えることで血管をひろげ、血圧を下げる効果があります。不整脈を予防改善する作用もあります。

抗血小板薬

血液を固める血小板成分の働きを抑えて、血の固まり(血栓)を防ぎます。血小板は血液を固めるために重要な働きをしている血液の成分です。しかし、肥大型心筋症や心房細動などの特定の心臓病では血栓ができやすい状態にあり、血栓塞栓症を引き起こすリスクがあります。抗血小板薬は血小板の働きを抑え血栓を予防するお薬です。

外科治療

外科治療 イメージ画像多くの循環器疾患では、内科療法で根治する(完全に治す)ことはできません。病状が軽度であれば、内科療法でも十分に症状をコントロールすることができます。しかし、根本的に手術でしか治癒させようのない心臓病や、進行性・重症の心臓病の場合には、内科療法でのコントロールは困難です。

当院は動物の心臓血管外科手術ができる世界的にも希少な施設の一つで、僧帽弁閉鎖不全症をはじめ先天性心血管奇形、不整脈、心臓腫瘍など、多岐にわたる心臓血管疾患に対して外科治療を行っています。当院は僧帽弁閉鎖不全症の犬に対して僧帽弁形成術を適応し、世界で初めて手術に成功しました。現在では、動物病院での手術症例数や手術成功率としては世界トップクラスの実績を誇ります。当院の代表的な心臓手術である、僧帽弁形成術について解説します。

僧帽弁形成術の概要

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、僧帽弁が年齢とともに変性して逆流が発生します。さらに、いったん悪くなった僧帽弁の病変は、投薬を行っても元の正常な状態には決して戻りません。そのため僧帽弁閉鎖不全症を根治するには手術が必要となります。

当院ではすべての症例に僧帽弁形成術を行っています。僧帽弁形成術とは、患者動物自身の僧帽弁を修復することにより逆流を治す、動物に最適な手術方法です。僧帽弁形成術は、僧帽弁閉鎖不全の根治方法として、動物の獣医学のみならず人間の医学においても最善の方法とされています。

手術適応診断

手術適応状態か否かの診断は、臨床症状からの判断と非侵襲的検査(身体検査、心電図検査、血液検査、X線検査、経胸壁心エコー検査)によって行います。麻酔が必要な侵襲的検査(心臓カテーテル検査、経食道心エコー検査等)は用いないため安全です。

当院の検査では僧帽弁の病変をほぼ正確に調べることができ、国内随一の診断技術があります。重症例、左心不全、右心不全、心機能低下、肺高血圧、不整脈、腎不全、長期病悩期間、高齢のケースであっても、あきらめることはありません。手術によって元気に回復する子たちはたくさんいます。

スタッフの人数と役割

現在当院では、術者1名、手術助手1名、器具助手1名、麻酔医1名、人工心肺医1名、アシスタント医3名の計8名のチームで僧帽弁形成術を行っています。スタッフ全員が当院の常勤獣医師です。当院のスタッフは循環器内科学、心臓外科学、麻酔学、体外循環医学、集中治療医学、周術期管理学の理論や実践手技についての基礎力が養われており、各ポジションを遂行するための特殊な知識やエキスパートとしての技術を身につけています。

術式

僧帽弁形成術を行うためには、心臓を切開して僧帽弁を露出して手術しなければなりません。しかし、何の工夫もせずに動いている心臓をそのまま切開してしまえば、たちまち大量の血が心臓から噴き出し、手術できるはずがありません。

現代医学では、心臓を安全に一時停止させることができる特殊な薬液(心筋保護液)や、心停止中に心臓の働きを代行してくれる人工心肺装置があります。動物の体温を人工的に下げ、体のエネルギー消費量をコントロールする技術もあります。過去の研究者たちの努力のたまものによって、現在では心臓手術を行うためのノウハウや特殊技術がすでに確立されており、医学的にきわめて安全であることが証明されています。

現在当院では、人工心肺装置による体外循環法、低体温麻酔法、心筋保護法などの安全手段を駆使して僧帽弁形成術を行っています。犬の僧帽弁閉鎖不全の病変は、さまざまな問題が複雑に入り組んでいます。そのため僧帽弁形成術は、三次元的に僧帽弁のさまざまな部分を修復する高度な技術と知識の結集が必要です。

僧帽弁形成術を行う外科医の考え方は、例えば壊れたドアの修理を行う大工さんの考え方にとてもよく似ています。トビラ板、ヒンジ、枠の壊れた両開きのドアを修理するためには、①トビラ板とヒンジの修理をし、②ドア枠を修理する必要があります。僧帽弁形成術も同じで、トビラ板は「弁尖」、ヒンジは「腱索」、ドア枠は「弁輪」です。当院ではさまざまな術式を組み合わせ、個々の動物に最適な治療方法を適応しています。特に人工腱索再建術や弁輪縫縮術を基礎術式に多用します。

人工腱索再建術

人工腱索再建術は延長・断裂した腱索を縫合糸で再建する方法です。使用するePTFE(Gore-Tex®)糸は、術後数ヶ月経過すると心臓の心内皮細胞に覆われる性質があります。そのためこの糸は生体適合性、抗血栓性、強度、柔軟性、耐久性に最も優れていると結論された大変安全な材料です。

弁輪形成術(annuloplasty)

弁輪形成術は拡大・変形した弁輪形態を修復する方法です。当院では、縫合糸で弁輪を巾着状に縫縮する方法を行っており、1.6kgから15kgの症例にこの術式を適用しましたが、経年後の耐久性も良好です。

形成術完成度の確認方法と僧帽弁形成術の目標

弁形成術の完成度は、左室内に生理食塩水を注入し、弁を閉鎖させて確認します(逆流テスト)。このとき僧帽弁の形態や逆流の有無を観察し、手技の妥当性や追加すべき手技について評価検討します。

安全に手術を遂行することを最優先しつつ、僧帽弁を生涯にわたって逆流することがない形態へと完全に回復させ、健康な動物と変わらない生涯を送るレベルのQOL(クオリティーオブライフ)を回復させることが我々の目標です。ほとんどの動物の僧帽弁で、逆流を激減させることができます。

術後経過と退院までの過程

手術が終了しますと、厳密にモニターで確認しながら徐々に人工的管理を離脱していきます。人工呼吸終了後は集中治療ケージで治療を行いますが、ほとんどの症例は1〜2時間程度で起立、歩行、飲水が可能となり、手術翌日から食餌や散歩が可能となります。入院中は血液検査や画像検査によって合併症の有無などをモニターし、各モニター値に問題が認められなければ、1週間程度で退院することができます。

退院後の経過観察ポイント・評価間隔

当院では術後検査を術後1週間目、1ヵ月目、3ヵ月目に検査費用無料(再診料など少額は有料)で行い、術前所見と比較検討し、その内容と今後の管理方針について患者ご家族様やホームドクターに情報提供しています。その後は術後1年ごとの精査を行います。

僧帽弁の逆流が激減することにより、心臓の血行動態、心拡大、症状、心不全ステージなどが劇的に改善していく様子を認めることができます。僧帽弁の整復状態は生涯にわたって維持され、過去に手術を行った症例において最長12年間の耐久性に問題がないことを確認しています。

活発で健康的な日常生活を送り、心不全に関連しない寿命を迎えることができるようになります。ご家族も、それまでに強いられていた医学的・経済的・心理的ストレスや時間制約から解放されます。

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